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中村藤吉平等院店

宇治川とのつながりを感じる公園のような地域の居場所
2009年,国の重要文化的景観「宇治の文化的景観」の景観重要構成要素に選定された中村藤吉本店平等店(旧菊屋萬碧楼)のフルリノベーションに伴う改修計画である。
表参道と接する間口は6mと狭かったため,既存長屋を解体し10m超に拡幅した。接道部分には,既存の石畳を再敷設し,街の雰囲気と滑らかに融合しながら,開放的で個性ある店構えとした。
 参道と母屋との高低差は約3mある。既存は参道から30m進んだ後に階段を上がる必要があったが,緩やかな芝生斜面沿いに川面表現の傾斜路を設け,車椅子やバギーを押しながら容易に店舗へアクセスできるよう動線の改善を図った。加えて,かつては間口中心に掲げていた屋号『まると』の暖簾は片側に寄せ,参道からの眺めを遮らず,奥行き感が感じられる設えとした。
 表参道から見えるのは,緑視効果の高い芝生斜面+雑木林の景。木立の下で参道側を向いて座る人々の居方はまるで公園のようであり,商いの気配は一切感じられないであろう。
 期待感のままに緩やかにカーブを描く径を歩み進むと,風の流れを感じながら店舗に辿り着く。川沿いの「月見台」からは驚くほどの近さで宇治川を眺めることができ,視線を南に振れば中州公園の背後に山並みが続く。
 表参道から奥へと続く「川を感じる」シークエンスの展開を意識し,店舗内も含めた「川と対峙する」様々な居方の提供を行った今回の改修デザインから,宇治の街の魅力を再発見して頂けたら幸いである。

住所:京都府宇治市宇治蓮華5−1
規模:約570㎡
竣工:2022年9月(植栽工事:同年10月)
事業主:中村藤吉本店
協働:アーバンデザインセンター宇治,mtka建築事務所
受賞:グッドデザイン賞ベスト100(2023)
掲載:商店建築 2023年10月号
  :新建築 2023年11月号
  :ランドスケープ作品選集2024